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大阪高等裁判所 平成6年(行コ)33号 判決

兵庫県尼崎市東難波町五丁目一七番二三号

控訴人(一審原告)

株式会社大産建設

右代表者代表取締役

高鍋萬里子

右訴訟代理人弁護士

木原邦夫

木原康子

相川嘉良

右訴訟複代理人弁護士

山口忠文

兵庫県尼崎市西難波町一丁目八番一号

被控訴人(一審被告)

尼崎税務署長 丸山巖

右指定代理人

山崎敬二

亀井幸弘

松田光弘

北畠昭二

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が昭和五七年九月一〇日付けでした、控訴人の昭和五三年七月一日から昭和五四年六月三〇日までの事業年度分の法人税更正処分のうち所得金額二四〇万七五一三円を、昭和五四年七月一日から昭和五五年六月三〇日までの事業年度分の法人税更正処分のうち所得金額七〇五万六三五〇円を、昭和五五年七月一日から昭和五六年六月三〇日までの事業年度分の法人税更正処分のうち所得金額一三七四万七五〇〇円をそれぞれ超える部分、及び右各事業年度分の各重加算税の賦課決定をいずれも取り消す。

3  被控訴人が昭和五七年九月一〇日付けでした、控訴人の昭和五三年一月一日から昭和五六年一一月三〇日までの源泉徴収にかかる所得税の納税告知のうち三二一〇万三四一五円を超える部分、及び不納付加算税の賦課決定をいずれも取り消す。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

(以下、控訴人を「原告」といい、被控訴人を「被告」という。その他の略称は、原判決のそれによる。但し、原判決三丁表一〇行目から末行にかけての「本件各事業年度」を「本件係争各事業年度」と改め、以下、原判決中に「本件係争各年度」又は「本件各事業年度」とあるのを、いずれも「本件係争各事業年度」と改める。)

一  本件は、原告が、被告のなした、〈1〉法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定、並びに、〈2〉源泉徴収にかかる所得税の納税告知及び不納付加算税の賦課決定につき、右〈1〉の各処分の基礎となった重機修理費(争点1)、簿外リベート(争点2)及び完成工事高の算定(争点3)、並びに、右〈2〉の告知等の基礎となった給与所得の源泉徴収税額表等の適用(争点4)、食事の支給による経済的利益の算定(争点5)にそれぞれ違法があるとして、右〈1〉、〈2〉の各処分等の取消しを求めた事案である。

二  当事者間に争いのない事実(本件各処分の存在等)、本件各更正処分の適法性に関する被告の主張、原告の主張及び争点の概要は、原判決の事実及び理由中「第二 事案の概要」欄一ないし四に記載のとおりである(但し、原判決五丁表三行目の「適法性」の次に「に関する被告の主張」を加え、六丁裏末行の「右金額」から七丁表一行目の「あるから」までを「右金額は実際には労務費として支払われていないものであり、原判決別表11の『仮払い扱いによるもの』欄記載の額は架空計上であるから」と、八丁表末行冒頭から同丁裏一行目の「重機修理費が」までを「ヨコハマ建機販売株式会社(以下「ヨコハマ建機」という。)に対する二三一万円の重機修理費(原判決別表7の『その他・架空計上分・昭和五四年六月期』欄記載の金額)が」と各改め、一〇丁裏三行目の「締切日」の次に「の翌日」を、一二丁表三行目及び七行目の各「原告」の前に「昭和五五年六月期の」を各加え、一三丁表末行の「一項二号」を「一項二号イ」と、一四丁表七行目の「原告」を「被告」と、一五丁表末行の「翌月」を「翌日」と、一六丁裏一行目の「一項二号」を「一項二号イ」と、一七丁表二行目の「一項二号」を「一項一号イ」と、一八丁表五行目の「一項一号、二号」を「一項一号イ、二号イ」と各改める。)。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、本件更正処分及び重加算税の賦課決定、並びに、所得税の納税告知及び不納付加算税の賦課決定は、いずれも適法であり、原告の本訴請求は、いずれも理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおり原判決を訂正等し、原告の当審における補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の事実及び理由中「第三 争点に対する裁判所の判断」欄一ないし五に記載のとおりである。

二  原判決の訂正等

1  争点1(重機修理費/架空計上)について

(一) 原判決一八丁裏一〇行目の「次の各事実が認められる。」を「次の各事実が認められ、関連刑事事件の公判調書(甲第三号証の一ないし五〔西平信子の証言」、第四号証〔東親叙の証言〕、第五号証、第七号証の一ないし四、第九号証〔いずれも山下正一こと金基徳の供述〕)及び同人に対する質問てん末書(乙第一五号証、第一九号証)のうち、右認定事実に反する部分は、いずれも後記各証拠と対比して採用できない。」と改める。

(二) 一九丁表九行目の「未払金のうち、」の次に「原判決別表7の『架空計上分』欄記載の」を、同丁裏八行目の「第七号証」の次に「、弁論の全趣旨」を各加え、一〇行目の「五〇万円以下の取引の場合、」を「五〇万円以上の取引の場合は、たいてい、」と、二〇丁表一〇行目の「証人大藪実」を「乙第八号証、原審証人大藪実」と、同丁裏二行目の「請求金額と集金額との差額」を「請求金額(前示の精算見積りに基づいて値決め交渉したものについては右交渉で決められた金額、それ以外のものについては毎月一〇日締めで作成された請求書記載の金額)と集金額(翌月末集金の際の回収額)との差額」と各改める。

(三) 二〇丁裏七行目の「キャタピラー三菱」から二一丁表一行目末尾までを次のとおりに改める。

「キャタピラー三菱と原告とが値決め交渉を行っても、購入後二年位の間に発生した重機の故障で重機の設計上(メーカーの責任)の問題や、一度重機を修理したにもかかわらず再度発生した故障でキャタピラー三菱(修理業者)と原告(使用者)の責任問題が絡むなどして、両者の主張が折り合わずにクレーム分として保留になったものについては、後日の話し合いで原告からキャタピラー三菱に修理費が支払われることもあるが、値引き交渉が成立したものについては、その後、原告が右交渉で決められた金額を超える修理費をキャタピラー三菱に支払うことはなかった。(乙第八号証、原審証人大藪実)」

(四) 二一丁表三行目の「請求金額と集金額との差額」を「請求金額(毎月一〇日締めで作成された請求書記載の金額)と集金額(翌月末集金の際の回収額)との差額」と、五行目から六行目にかけての「乙第一一号証」を「乙第一一号証、第一六号証」と、七行目の「取締役部長」を「取締役兼経理部長」と各改め、九行目の「専務取締役」の次に「であり、事実上の経営責任者であった」を、同丁裏一行目の「山下」の前に「昭和五四年六月期や昭和五六年六月期の決算時に、」を各加え、三行目の「乙第一三号証」を「乙第一二ないし第一四号証、第一七号証、第一八号証、第二〇号証」と改める。

2  争点2(簿外リベート/使途不明金)について

(一) 原判決二二丁表六行目の「昭和五四年六月期」の前に「原判決別表8記載のとおり、」を加える。

(二) 同丁裏九行目の「右通達は、」から二三丁表一行目末尾までを、次のとおりに改める。

「右通達(法人税基本通達九-七-二〇)は、そもそも企業会計の計算において、損金として控除する費用・損失は、いずれもその支出の内容、支出の相手方、支出の時期及び金額が明確になっていることが大前提となっているところ、とりわけ、課税の公平を重視する法人税の計算においては、法人が支払った金額のうちその使途を確認することができない、いわゆる使途不明金を損金に算入することが許されないことを明らかにしたものである。」

3  争点3(完成工事高/帳端収入)について

原判決二五丁表三行目の「壺山建設(山の街)」を「壺山建設山の街現場」と、九行目の「6/16~6/30」を「6/11~6/30」と各改め、二六丁表二行目の「北須磨」の次に「現場」を加える。

4  争点4(給与所得の源泉徴収表〔月額表〕及び賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表の適用)について

(一) 原判決二七丁表一行目の「別表1」を「原判決別表5」と、同丁裏八行目の「各一項二号」を「各一項二号イ」と各改める。

(二) 同丁裏九行目の「原告」から二八丁表二行目末尾までを、次のとおりに改める。

「原告は、所得税基本通達一九四・一九五-二が、『扶養親族等の控除を受けない者』の申告につき、『給与所得者の扶養控除等申告書を提出すべき者が、控除対象配偶者、扶養親族、障害者等の控除を受けないため、給与等の支払者に関する事項だけを申告する場合には、連記式その他の簡易な方法により申告することができる。』としているのは、給与所得者の扶養控除等申告書は国税庁で用紙を印刷、配付しているところ、独身者用などの簡便的な申告方法によることもできることを明らかにしたものであり、右通達の趣旨、すなわち、控除を受けないときは連記式でも簡易なものでもいいとなっている趣旨からすると、扶養控除等申告書の不提出のみを理由にして、完全に従たる所得を得ることが不可能な者であることが明白な原告の従業員に、本来従たる給与所得者に適用される月額表等の乙欄を適用すべきではないと主張する。」

5  争点5(食事の支給による経済的利益)について

原判決二九丁表一〇行目の「認められ」の次に「(乙第二五号証)」を加え、末行の「右食事代金」から同丁裏二行目末尾までを「右食事代金に相当する額を従業員から実際に徴収していたのではなく、食事自体を無償で支給することにより、その食事の価格に相当する金額の経済的利益を従業員に供与していたものと認められるから、本件において同通達三六-三八の二を適用する余地はない。」と改める。

三  原告の当審における補充主張及びそれに対する判断

1  争点1(重機修理費/架空計上)について

(一) 期首未払金額の算定方法

《原告の主張》

被告は、「当期重機修理費=決済額(支払手形)-期首未払金+期末未払金」の算式で、原告の元帳等の右各公表計上額を計算した上、各認定額を同じ算式で計算し、公表額との差額を架空重機修理費としている。被告によって期首及び期末未払金とされた額は、相手方会社(重機メーカーやディーラー)の売掛台帳等で確認された数字であると考えられるが、右算式によると期首未払金は決算期中に全て支払手形で決済されたことになっている。しかし、原告は、当時いわゆる現金主義(動く度に決済する)で経理処理していたので、『借方 重機修理費/貸方 支払手形』の形態をとっており、当然、重機修理費の相手方勘定である未払金は、期末にのみ発生する。その未払金の中に架空修理費があるとして否認するのなら、一期毎で決算処理をするべく更正処分がなされているのであるから、この架空部分が含まれたとする未払金(負債科目すなわち貸借対照表科目)の金額を、次期に繰り越してその期の(期首)未払金とするのは不当であり、被告が相当であると認定した金額を繰り越すのが相当である。原判決別表7がいうところの公表計上額の各期期首未払金が正しく改められただけでも、反則所得金額(重加算対象税額)は三期合計で実に四八三四万一二六一円(同表記載の争いのない金額である※印以外の金額を加算減算した金額)も激減するから、とうてい看過できない。

《右主張に対する判断》

「当期重機修理費=(当期中)決済金額-期首未払金額+期末未払金額」の算式は、当期重機修理費(当期中に発生した原告が支払うべき金額)と期首未払金額の合計額から当期中に決済された金額を控除した残額が、期末における未払金額と一致することから導き出されたものであり、決済金額、期首未払金額、期末未払金額の正当な金額が判明すれば、右算式に代入することによって当期において計上すべき正当な重機修理費が自ずと算出されることになる。被告は、原告が現金主義、すなわち、期中は決済ベースで経理処理を行い、期末において未払金部分の経理処理を行う方法によっていることから、本件係争各事業年度において計上すべき正当な重機修理費を算出するにあたり、右算式を採用し、原告計上の重機修理費と、被告が調査の結果正当と認定した本件係争各事業年度の期首、期末の未払金額を右算式にあてはめて算出した本件係争各事業年度において計上すべき正当な重機修理費との差額を更正処分の対象としたものであり(乙第二ないし第二一号証、第四三ないし第四九号証、弁論の全趣旨)、期首未払金額の算定方法に原告のいうような誤りがあるとはいえない。原告の右主張は採用できない。

(二) キャタピラー三菱関係

《原告の主張》

左記(1)ないし(4)の理由により、原告が計上したキャタピラー三菱に対する昭和五四年六月期(昭和五三年七月一日から昭和五四年六月三〇日までの事業年度)末日における未払金二五一六万三五五八円は、翌昭和五五年六月期(昭和五四年七月一日から昭和五五年六月三〇日までの事業年度)中に現実に支払われているのであるから、右未払金には被告が認定した架空未払金なるものは含まれていない。

(1) 昭和五五年六月期中に、原告がキャタピラー三菱に対し、重機修理費支払代金として決済(支払手形の振出しも含む。以下同じ。)した金額の合計額(以下「総決済金額」という。)は、原告の公表計上額及び被告による認定額のいずれもが四七二三万六六八七円であり、両者は一致している(乙第一号証)。

(2) 右総決済金額は、重機修理費として昭和五五年六月期中に発生し、かつ、同期中に決済した金額(以下「支払済昭和五五年六月期重機修理費」という。)と昭和五四年六月期末の未払金のうち昭和五五年六月期に決済した金額(以下「支払済昭和五四年六月未払金」という。)との合計額である。

(3) 支払済昭和五五年六月期重機修理費の金額を記載した重機修理費元帳には、キャタピラー三菱に対し合計二二〇七万三一二九円が計上されており(甲第一八号証)、総決済金額四七二三万六六八七円から右二二〇七万三一二九円を控除した残額は二五一六万三五五八円となり、公表計上された昭和五四年六月期末の未払金額と一致する。

(4) したがって、昭和五四年六月期末の公表計上未払金は、すべて翌昭和五五年六月期中に現実にキャタピラー三菱に対し支払われていることになり、架空未払金なるものは存在しない。

《右主張に対する判断》

国税査察官の調査により判明したキャタピラー三菱の各支店が昭和五五年六月期中に原告から受け取った手形の明細と、原告の重機修理費元帳中の右各支店に関する記載とを照合すると、別表一記載のとおり、原告の重機修理費元帳には手形による支払いと明確に記載されている昭和五四年一二月二九日振出しの額面一六一万九四四二円の支払手形については、右各支店とも受入処理した形跡がない(甲第一八号証、乙第四号証)。また、原告の重機修理費元帳では、キャタピラー三菱との取引については、昭和五四年一二月二九日以降しか記載されていない(甲第一八号証)が、原告とキャタピラー三菱との取引は、毎月一〇日締め翌月末日払いであること(乙第八号証)からすると、昭和五四年七月一日から同年一〇月一〇日までに発生した重機修理費(本来、同年一一月末日までに支払わなければならない分)については全く決済されていないことになり極めて不自然である(ちなみに、原審証人大藪実は、原告がキャタピラー三菱に対し、半年もの間全く重機の修理を依頼しなかったということは、当時の取引の実情からしてあり得ない旨証言している。)。さらに、国税査察官の調査によれば、別表二記載のとおり、キャタピラー三菱の各支店が昭和五五年六月期中に原告から受けとった手形のうち、原告の重機修理費元帳に記載されていない手形の中にも、同期中に発生した重機修理費に対する支払いのために振り出され決済されたものが含まれている(乙第四号証)。そうだとすれば、原告の重機修理費元帳には、現実に振り出されていない架空の支払手形が記載されている疑いがあるとともに、本来記載されるべき取引、すなわち、昭和五五年六月期中に重機修理費が発生し、かつ、同期中に決済された取引の記載漏れがあることは明らかである。

しかるところ、原告の前記主張は、「〈1〉当事業年度(昭和五五年六月期)の総決済金額(公表計上額、認定額)-〈2〉支払済当事業年度(昭和五五年六月期)重機修理費=〈3〉支払済前事業年度(昭和五四年六月期)未払金額」との計算式に金額を代入すると、右〈3〉の金額は原告が計上している前事業年度年末払金額と一致することから、前事業年度末未払金額は全て当事業年度中に実際に決済されており、架空未払金は存在しないというものである。しかし、原告が右〈2〉の金額として採用している重機修理費元帳記載の金額が前示のとおり不正確なものである以上、原告の右主張は、その前提条件に誤りがあり採用できない。

また、原告の重機修理費元帳に昭和五四年一二月二九日以降の取引の記載しかないことや、同元帳記載の金額とキャタピラー三菱側の受取手形の金額との間に不一致が生じたことの原因としては、原告が、重機修理費の決済に関する会計処理の際、まず、前事業年度(昭和五四年六月期)末未払金額を単純に取り崩していく、「借方 未払金/貸方 支払手形」との仕訳を行い(この段階では重機元帳に記載せず)、右取り崩しが終わった段階で、初めて「借方 重機修理費/貸方 支払手形」との仕訳を行っていた(この段階で重機修理費元帳に記載していた)ことが考えられる(乙第五〇号証)。仮に、原告がそのような会計処理をしていたとすれば、前事業年度末未払金額に重機修理費元帳記載金額を加算した金額が、当事業年度の総決済金額と同額となることは当然であるが、他方、重機修理費元帳には重機修理費として当事業年度中に発生し、かつ、当事業年度中に決済した金額の一部が記載されていないことも明らかであるから、前事業年度末未払金額が全額決済されているとの原告の主張には誤りがあり採用できない。

(三) ヨコハマ建機関係

《原告の主張》

昭和五五年六月期中における原告のヨコハマ建機に対する重機修理費の総決済金額は、原告の公表計上額及び被告による認定額のいずれもが一一六九万一三〇〇円であり、両者は一致している(乙第一号証)。原告の重機修理費元帳に記載された同期中の決済金額の合計額と昭和五四年六月期末の公表計上未払金額との合計額は、右総決済金額一一六九万一三〇〇円と一致する(甲第一八号証、乙第一号証)から、同期末の公表計上未払金は、昭和五五年六月期中に現実に決済されたことは明らかである。しかるに、被告の認定した昭和五四年六月期末の未払金額は原告の公表計上金額より二三一万円多いが、被告の認定額が正当であれば右二三一万円についても翌昭和五五年六月期中に決済されているはずであるにもかかわらず、同期中には昭和五四年六月期末の公表計上未払金しか決済されておらず、右公表計上未払金額が過少計上金額であるとされるのは、承服できない。

また、被告が認定した本件係争各事業年度の期首(期末)未払金額や決済金額の中には、根拠不明のものが存在する。すなわち、(1)ヨコハマ建機の原告に対する昭和五三年六月二〇日付け請求書の金額七五七万五五〇〇円と被告の認定金額三五八万九五〇〇円との間に差額三九八万六〇〇〇円が生じている(乙第二号証)が、被告が右金額を認定した根拠が不明であり、(2)原告の未払金支払状況表記載のヨコハマ建機支払分(甲第一八号証)が無視されており、昭和五五年六月期における原告の重機修理費元帳記載金額一一六九万一三〇〇円に一部にせよ加算されていない根拠が不明である。

《右主張に対する判断》

被告が昭和五四年六月期末の未払金額を公表計上額より二三一万円多く認定したのは、同期末日(昭和五四年六月三〇日)までにヨコハマ建機側の役務提供は完了したが、請求書の締切日(毎月一〇日締め、翌月末日払い)との関係で翌昭和五五年六月期になって請求を受けた取引について認定したものであり、ヨコハマ建機では、いわゆる帳簿売上分として計上していたものである(乙第四七号証)。そして、右帳端売上分二三一万円は、ヨコハマ建機の売上集計によると、昭和五四年七月請求分の金額中に含まれていることが明らかである(乙第二号証)から、右二三一万円は、当然、昭和五五年六月期の総決済金額一一六九万一三〇〇円の中に含まれており、右二三一万円が同期中に決済されていないということではない。この点に関する原告の前記主張は採用できない。

また、原告が根拠不明と主張する差額三九八万六〇〇〇円のうち三八〇万円は、昭和五一年ころ、倒産した横浜車両という会社のヨコハマ建機に対する債務を、原告が肩代わりする旨の口約束があったことから、ヨコハマ建機は原告に対し請求していたもので、本来、原告の重機修理費にかかる債務とは認められないものである。その上、原告は、昭和五一年ころ以降、右請求金額を全く支払っておらず、現場責任者であるヨコハマ建機大阪営業所長も単なる口約束だけで全く回収の見込みがないものと判断していたものである。右三八〇万円のほか、昭和五三年六月三〇日(昭和五三年六月期末日)までに原告から入金された金額が一三万円、値引き五万六〇〇〇円があり、右三件に関する経理処理と請求書作成との時間的ずれやヨコハマ建機本社への大阪営業所からの連絡不十分が原因となって右差額合計三九八万六〇〇〇円が生じたものであり(以上につき乙第四七号証)、被告の認定額に誤りはない。この点に関する原告の前記主張は採用できない。

さらに、原告が主張する未払金支払状況表には、ヨコハマ建機に対する未払金額として合計六六一万七六〇〇円が記載されている(甲第一八号証)が、右未払金額は、原告の昭和五五年六月期末の公表計上未払額と一致する(乙第一号証)。そうだとすれば、右未払金支払状況表は、同期末における未払金の昭和五五年七月以降における支払状況を記載したものとするのが相当であり、同表に記載されているヨコハマ建機に対する支払分が昭和五五年六月期中の総決済金額である一一六九万一三〇〇円に加算されていないことは当然である。この点に関する原告の前記主張は採用できない。

2  争点2(簿外リベート/使途不明金)について

《原告の主張》

国税査察官の調査により、原告が業界の常であるバックリベートとして、原判決別表8の「簿外支払リベート額」欄記載の金員を実際に支出し、かつ、いずれもその支払先・支払目的が明らかになっているにもかかわらず、被告がそのうちの昭和五六年六月期の岸本建設に対する七〇〇万円とその余とを別異に扱う(岸本建設に対する七〇〇万円のみを簿外経費として認め、その余を使途不明金として重加算税の対象とした)のは、合理的な理由がない。

《右主張に対する判断》

右岸本建設に対する七〇〇万円については、原告がその支払先を大庭組として計上した架空の重機賃借料を岸本建設がリベートとして受領したことが認められ(乙第二七号証、弁論の全趣旨)、その支払先・支払目的等が明らかであるのに対し、その余は、原告がリベートに相当する金額を支払ったことは認められるものの、原告の実質的な経営者である山下が、リベートの支払先を明らかにすることは支払先に迷惑をかけることになり、将来の営業にも重大な影響(損害)が生じるとして、その支払の事実さえ否認する態度をとった(乙第二七号証、弁論の全趣旨)ため、結局、本件全証拠によるも、右支払と業務との関連性が明らかではない。そうだとすれば、課税の公平を図る見地から、右支払いについては、いわゆる使途不明金として、法人税法二二条三項の規定による損金の額に算入されないものとするのが相当である。原告の右主張は採用できない。

3  争点3(完成工事高/帳端収入)について

《原告の主張》

土木工事業において、工事の進捗度合いに応じて、適切な帳端収入(事業年度の最終月の請求締切日の翌日から当該事業年度末日までの期間の工事出来高=帳端完成工事高)を計上するためには、経理担当者としては、まず、日割方法で計算せざるを得ないが、現場の責任者の目利きによる金額の方が実情に合っているから、右計算後、算出した金額の適否を工事担当者に確認することは当然のことであり、被告が、天候、故障修理等により工事の進捗状況が左右される土木工事業の実態を理解しないまま、あくまでも日割方法(稼働日数按分による算出方法)による経理処理のみを正当であると主張するのは失当である。

そもそも、元請業者が実際に施工した金額以上に原告に支払う場合、元請業者側の経理処理では施工金額を超える金額は仮払金処理されるが、右金額は、原告側からみると、もともと実際に工事を完成し元請業者に引渡し済みという意味での完成工事高(科目)ではない。また、重機による運土量のみが完成工事高ではなく、事務管理費や機械等の運搬費等を含むものであり、しかも、運土量は、測量によってではなく、ダンプカーや他の運土機械何台分とかにより、併せて目測による計量をし、その単価を掛けて算出した金額であって、いわゆる工事完成時における売上高ではない。帳端完成工事高について、益金算入科目の正当性の判断は、そのような実情に即してなされなければならない。

《右主張に対する判断》

本件において問題となっている帳端完成工事高をみると、原告は、請負契約分については日割計算、リース契約分については時間割計算により、これを算出した後、右算出された金額を変更の上、変更後の金額を帳簿完成工事高として計上している(乙第二二号証)が、当初算出金額と変更後の金額とを比較すると、別表三記載のとおり、当初算出金額から七割以上も減額されているものや、単純に金額を七月以降の金額と逆にしているものもあり、原告がいう工事の進捗度合に応じた合理的な算出がなされたとは認め難い。ちなみに、当時原告の経理部長であった西平も、右変更にかかる金額が工事担当者に確認した上で工事の進捗度合いに応じて合理的に算出したものであるとは説明しておらず、かえって、右金額変更は山下専務の指示に基づき原告の利益調整の目的が行っていたものであり、当初金額の方が正当な金額である旨述べている(乙第二三号証)。また、当時の原告の受注先(元請業者)に対する工事代金請求までの手順は、毎月原告の現場主任が各オペレーターの記載した重機の稼働日報に基づき運土量表を作成し、同表に基づいて受注先の現場主任と工事の進捗状況の確認交渉を行い、その結果を原告の機械管理部長東親叙に連絡し了承を得た後、運土量表に基づいて請求書を作成して受注先に請求するというものであり(乙第一七号証、第三三号証、第三七号証、弁論の全趣旨)、右請求書により請求された金額が、同請求書の計算期間にかかる確定した収益として計上されることになるのであるから、帳端完成工事高の算出方法として、右請求金額を稼働日数による日数で単純に按分する方法(原告のいう稼働日数按分による算出方法)を採用したとしても、当時の原告の工事代金請求までの手順からみて、特に不合理な計算方法であるとはいえない。さらに、原告のいう元請業者側が仮払金として処理する金額については、完成工事高(請求金額)の回収時には差し引きされて決済されているものの、そもそも記帳の際、原告は、請求書控え及び元請業者作成の引去明細書から作成した出来高一覧表の出来高欄から完成工事高(科目)に直接記載しており、右完成工事高に前受金を含めておらず、両者を区別していたものと認められる(乙第三七号証)から、帳端完成工事高の計算の基礎にした請求金額の中には前受金は含まれていないことが明らかである。

右にみてきたところによれば、本件においては、原告が、帳端完成工事高として何ら合理性のない金額を計上しているものといわざるを得ないから、被告が、稼働日数按分による算出方法によって原告の収入(所得金額)を計算し、これに基づきその更正処分を行うことは何ら不合理、かつ、違法であるとはいえない。原告の右主張は採用できない。

4  争点4(給与所得の源泉徴収表〔月額表〕及び賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表の適用)について

《原告の主張》

建設労務者に支払う給与に対する源泉所得税の取扱いに関する所得税関係個別通達(昭四一直審(源)五四)が、「重建設機械等の運転、操作ならびにその点検調整の業務に従事する者」については月額表等の甲欄を適用する者の一として取り扱うことを認めているところ、原告の従業員が右通達にいう業務に従事する者であることは明らかである。しかも、国税査察官による調査の結果、被告が原告における従業員の在職状況をつぶさに把握し、その実態が従たる所得を得ることのできない者で、原告が主たる給与の支払者であると決定することができたことは明らかであるにもかかわらず、これを無視するのは関係法令等の趣旨に沿うものとはいえない。いわば、被告が、甲欄を適用して然るべき場合であることを知りながら、原告の従業員がたまたま初めに扶養控除等申告書を提出しなかっただけで乙欄を適用して顧みない結果、本税だけでも、甲欄であれば三二一〇万三四一五円であるのに、乙欄によれば一億二八一五万九六一一円となり、差引き実に九六〇〇余万円という多額の負担を原告に課し、さらにこれに不納付加算税九六三万八九〇〇円まで付しているのは、懲罰的課税以外のなにものでもなく、甲、乙欄いずれによるにせよ源泉徴収義務を果たし、単にその適用を誤っただけの場合(仮に原告がその適用を誤ったとした場合)を律するに大いに疑問がある。

《右主張に対する判断》

原告主張の所得税関係個別通達(昭四一直審(源)五四)は、扶養控除等申告書の提出及びその記載内容によって主たる給与の支払者か、従たる給与の支払者かを決定するという所得税法の規定を当然の前提として、その取扱いを認めているものであるから、原告の右主張は採用できない。

5  争点5(食事の支給による経済的利益)

《原告の主張》

所得税基本通達三六-三八の二の趣旨は、徴収の方法によって左右されるものではないし、原告の場合、給与の一部から負担させるという方法をとったとはいえ、現に徴収しており、従業員に食事代(一日当たり一五〇〇円の中には調理師、清掃員等の人件費も含まれている。)を負担させていることに相違はない。そして、所得税法九条(非課税所得)一項六号(給与所得を有する者がその使用者から受ける金銭以外の者〔経済的な利益も含む。〕でその職務の性質上欠くことのできないものとして政令で定めるもの)を受けた同法施行令二一条(非課税所得とされる職務上必要な給付)は、その一号で、船員法八〇条(食料の支給)の規定により支給される食料その他法令の規定により無料で支給される食料を挙げている。これは、船員の場合、海上に隔離されて自主的に食事をとることが事実上不可能であるとの労働環境に配慮したものと考えられるところ、元来、陸の孤島ともいうべき山野を重機土木で開発することを専らとする原告のオペレーターや作業員も右と全く同じ労働環境(家族から遠く離れて単身生活を強いられている原告の従業員が、自ら食事を作り、あるいは購入することは環境上不可能な状態)にあるから、船員の場合と同様の取扱いをされて然るべきものである。そうだとすれば、原告の取り扱いは前記基本通達の定めに沿うものである。

《右主張に対する判断》

前示のとおり、原告は、形式的に従業員に対し食事手当を支給し同額を給与から天引きしているようにしているだけで、実際に食事手当を支給し、食事代を徴収したものではなく、右基本通達を適用する余地はない。また、所得税法で非課税所得として規定されているものは限定されており、本件の場合はそのいずれにも該当せず、非課税として取り扱うことが認められないことは明白である。原告の右主張は採用できない。

6  重加算税や過少申告加算税(以下「重加算税等」という。)の計算の基礎となる税額について

《原告の主張》

三期にわたる本件係争各事業年度の法人税の更正処分にあたり、当期の事業年度で所得に加算された金額のうち、翌事業年度において所得から減算されているものがあり、そのような翌期において減算される金額についても、重加算税等を賦課するというのは違法な手法である。

《右主張に対する判断》

重加算税等の計算の基礎となるのは、各事業年度において更正処分によって増加した税額であり、また、各事業年度の所得を基に税額は算出されるものである(その趣旨については、現行の国税通則法一五条二項三号、六八条一項、六五条一項、法人税法二二条一項参照)から、複数の事業年度の内容を斟酌して重加算税等を賦課すべきとの原告の右主張は採用できない。

四  結論

以上の次第で、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上野茂 裁判官 竹原俊一 裁判官 長井浩一)

別表一

〈省略〉

別表二

〈省略〉

別表三

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